悲しみがとまらない 歌手:杏里 作詞:康珍化

1983年11月リリース、杏里14枚目のシングル。前作『CAT’S EYE』に続いてオリコンシングルチャート10位圏内にランクインされ、連続ヒットを記録しました。
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『CAT’S EYE』がヒットし、テレビのベストテン番組で彼女がインタビューを受けた時、「本来、自分がやりたい音楽とは違いますが頑張ります」的発言をした記憶があります。アニメの主題歌であるためのキャッチーな曲調に違和感を感じていたのかなと、その時は思いました。
そして次作のこの曲。角松敏生をプロデュースに迎えてのウエストコーストの香りが漂う曲調。これこそ彼女がやりたかった音楽なのではないかと、私自身答え合わせが出来たような気がしました。
歌詞は友達に最愛の彼を奪われた女性の悲しみを謳った至ってストレートな内容。彼を友達に紹介したところから、彼女自身の知らないところで事が進み、最終的に一人取り残されるまでが綴られています。
私が注目したのは各メロに散りばめられたタイトルにもなっているフレーズ“I can’t stop the loneliness”と“悲しみがとまらない”を繋ぐワード。これらが主人公の女性の心情の変化を素直に表わしているように感じたのです。
オープニングの部分…
I can’t stop the loneliness こらえ切れず 悲しみがとまらない
彼女は悲しみが襲ってくるのを「こらえ切れない」と言っています。感情を堪える(抑える)とはどういう事でしょう。彼女は友達に対しても彼に対してもクールに対応していたのではないでしょうか。恋人を横取りされても冷静を装って…つまりカッコいい大人の女を演じていたのかもしれません。
しかし、実際は気持ちはザワザワしたまま、襲ってくる悲しみの感情をこらえる事が出来なかったのです。
次の部分…
I can’t stop the loneliness どうしてなの 悲しみがとまらない
「どうしてなの」…これは自分の気持ちがコントロールできない事へのイライラではないでしょうか。カッコいい大人の女を演じているはずなのに、悲しみの感情に負けてしまった自分。
彼女にとってこれは初めての体験だったのかもしれません。これまでの人生で挫折というものを経験していなかった為に、なぜ悲しみというものに自分が負けてしまったのか分からないとも考えられます。
2コーラス目終了後の部分…
I can’t stop the loneliness 彼を返して 悲しみがとまらない
I can’t stop the loneliness 誰か助けて 悲しみがとまらない
「彼を返して」は掛け値なしの彼女の本音。ここまで来ると自分の感情のコントロール云々ではないのです。
そして抑えつけた感情と漏れてしまった本音の間で彼女自身はパニックになっているのでしょうか。「誰か助けて」と救いを求めているのです。
恋人と友達の両方を失った女性が徐々に崩れていく姿が垣間見れる重い歌詞ですが、前述したウエストコーストの香りがする明るい曲調と杏里の爽やかな歌声がそれらを中和してくれています。逆にそのバランスが絶妙で、心にジンジン響いてくるのです。