九月の雨

 九月の雨 歌手:太田裕美 作詞:松本隆

 1977年9月リリース、太田裕美9枚目のシングル。彼女にとって「木綿のハンカチーフ」「赤いハイヒール」に次ぐ3番目のヒット曲。また2015年時点で、オリコントップ10入り最後の曲です。

 歌詞はこちらで。

 舞台となっているのはタクシーの中。恋人の元へ向かう為に後部座席に座っている女性の心の移り変わりを描いた歌詞だと解釈できます。

くちびる噛みしめタクシーの中で あなたの住所をポツリと告げた

引用元

 1番のBメロのフレーズです。彼女は運転手に行先として恋人の住所を告げていますが、それは噛みしめた唇からやっと出た言葉のようです。という事は彼女は恋人の元へ向かう事を躊躇していたのではないでしょうか。これから目にするであろう現実を避けたいという気持ちがあったのかもしれません。

 その現実とは、2番のBメロに記されています。

さっきの電話であなたの肩の 近くで笑った女(ひと)は誰なの?

引用元

 これを確かめる為に彼女は恋人の元へ向かうのです。「確かめたいけど、現実を突き付けられたくない。彼の事を信じたい、でも本当はどうなのだろうetc.」 雨が降る中で彼女には色々な思いが次から次へと湧いてきたのでしょう。そしてようやく決意して停めたタクシー。乗り込んだ彼女は心も体も雨に打たれてずぶ濡れだったと思います。

September rain 九月の雨は冷たくて
September rain 想い出にさえ染みている

引用元

 タクシーに乗り込んだ時点での彼女の心境です。心にも体にも打ち付ける雨は彼女に冷たかったのです。それが2番になると少しニュアンスが変わります。

September rain 九月の雨の静けさが
September rain 髪のしずくをふるわせる

引用元

 1番で「冷たい」といっていた雨が、2番では「静けさ」が強調されています。これは彼女がタクシーの中から見た風景“雨に濡れた公園の椅子”が関係してると思います。椅子は彼女にとって彼との思い出の象徴。それにベールを掛けるようにしっとりと濡らす雨。彼女は思い出が遠ざかるような「無」に近い静けさを感じたのではないでしょうか。

 そして、1番、2番でざわついていた彼女の心が3番になると別の顔を見せるのです。

季節に褪せない心があれば 人ってどんなに倖福(しあわせ)かしら

引用元

 電話の向こうで別の女性と一緒にいるかもしれない彼。その事実なのか勘違いなのかを確認する為にタクシーに乗った彼女。でも、このフレーズからは諦めたような気持ちが見え隠れします。彼が時間の経過で心変わりしてしまった事を認めてしまっているのです。雨に対するニュアンスにも変化が。

September rain 九月の雨は優しくて
September rain 涙も洗い流すのね

引用元

 今度は「優しくて」と表現しています。最初は現実を突きつけてくる「冷たい」存在だったのが、自分に冷静な心を取りもどさせる「静か」な空間を作る存在に。そしてここでは立ち直るきっかけを作ってくれるかもしれない「優しい」存在に変わっています。

 そして前向きなフレーズが続きます。

愛が昨日を消して行くなら 私明日に歩いてくだけ

引用元

 私の想像ですが、彼女は結局、ここでタクシーを降りたのではないでしょうか。雨に濡れながら歩く様子が目に浮かびます。彼女が向かうのは彼の元ではなく、明日なのです。そのシーンを想像させるのがラストのフレーズです。

September rain 九月の雨は冷たくて
September rain 九月の雨は優しくて

引用元

 「冷たさ」「優しさ」は表裏一体。どちらの側面も持ち合わせている雨。どちらに感じるかは人間の気持ち次第なのでしょう。

 余談ですが、このようにまったく逆の意味を並べる手法、同じ松本隆作品、松田聖子の「小麦色のマーメイド」の中の“好きよ 嫌いよ”というフレーズでも使われています。人の心のうつろいやすさを表現する高度なテクニックだと思います。

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