Temptation(誘惑) 歌手:本田美奈子 作詞:松本隆

1985年9月リリース、本田美奈子4枚目のシングル。
歌詞はこちらで。
本田美奈子が歌う姿を初めてテレビで見た時、かなり衝撃的でした。アイドル然とした可愛らしいルックスと華奢な体なのに声量と歌唱力・表現力の凄さ。そのアンバランスさが魅力的だったのです。
その後「1986年のマリリン」でヘソ出しルックと際どい振付でブレイクした時、個人的には「あれれ?」でした。強烈なキャラ付けが、元々彼女が持っている魅力を消したような気がしてもったいないと思いました。
彼女は秋元康氏の作詞・プロデュースのイメージが強いですが、この曲はマリリンでブレイク直前にリリースされた松本隆+筒美京平のゴールデンコンビ作品です。好きな人との距離を縮めたいのに、踏み出せない女性の葛藤を綴った曲です。
海に出かけた二人。その関係性は恋人と呼ぶにはまだ早いみたいです。
1番、2番のそれぞれのAメロ・Bメロは描かれているのは海辺での何気ない行動です。しかしそこに二人の駆け引きが見え隠れしているのです。
岬に立てば強い潮風 スカートの裾じゃれついてるわ
引用元
望遠鏡で沖のヨットを 覗いた時に肩を抱くのね
1番のAメロ・Bメロからの抜粋です。
潮風に煽られて足にからみつくスカート。結構刺激的な光景です。そして望遠鏡を覗きこんで隙を見せる彼女。果たしてこれらは彼女の思惑通りなのでしょうか。
予感通りにせまるあなたに 計算違い 髪がときめく
引用元
彼の行動は「予感通り」なのに「計算違い」。まったく反対の意味で辻褄が合わないようなフレーズになっています。彼女自身もプチパニックに陥って混乱しているからではないでしょうか。それが分かるのが「風に吹かれてときめく髪」。
松本隆作品は登場人物の心理描写に「風」がキーワードとして使われるパターンが時々見られます。例えば水谷豊の「ばーばーらいと」では風にたなびく髪を男女のすれ違う心に、寺尾聰の「ルビーの指環」では窓の外にある風の街を主人公が逃げ出したい場所に喩えています。この曲では風に吹かれる髪と彼女の心臓をかけて「ときめく」と表現しているのだと思います。さすが風使いの詩人松本隆氏です。
彼女の混乱は心ときめかせたままサビへと続きます。
ああ誘惑して 心の中で私が叫ぶ
引用元
ああ誘惑しないで 違う私がブレーキかける
ああ誘惑して 瞳で私話しかけてる
ああ誘惑しないで だけど何かが邪魔をしてるの
これも辻褄が合わない二つの気持ちが交互に綴られています。彼女の心の中で天使と悪魔が交互に囁きかけてるような光景が繰り広げられているのでしょう。
リリース当時、思春期の女性の繊細な気持ちを表現したいい曲で、それを歌いこなす本田美奈子も凄いと思いました。それだけに直後のマリリンで「あれれ?」となったのです(笑)
しかしあのブレイクが彼女が世間から認められるきっかけになり、その後のパフォーマーとしての幅が広がったのかもしれませんね。
まだまだ活躍を見たかったです。まさに「歌姫」という言葉がぴったりなシンガーでした。