いっそセレナーデ 歌:井上陽水 作詞:井上陽水

1984年11月リリースの井上陽水のシングル。本人が出演したサントリー角瓶のCMソングに起用されています。同年12月に発売されたアルバム「9.5カラット」にも収録。他のアーティストへ提供した楽曲を陽水本人セルフカバーしたアルバムでしたが、その中で唯一オリジナルな本人歌唱の曲です。
歌詞はこちらで。
この曲自体も高橋真梨子、小野リサ、中西保志、大橋純子といった実力派シンガー達にカバーされています。
タイトルにあるセレナーデとは、
音楽のジャンルの1つで、一般的な言葉としては、恋人や女性を称えるために演奏される楽曲、あるいはそのような情景のことを指して使う。(出典:ウィキペディア) |
だそうです。日本語では小夜曲(さよきょく)と表現されますので、個人的に夜の静かな時間帯に心に響く曲というイメージを持っています。
この歌詞は昔の恋愛体験を思い出し切ない気持ちになった男の心情を描いたものだと解釈できます。湧き上がって来た感情をランダムに表現したものだと思ってましたが、よく聴いてみるとちゃんと時系列のストーリーがあると気付きました。
歌詞はこのような順番で構成されています。
- 1番Aメロ:あまい口づけ~
- 1番Bメロ:忘れたままの~
- 1番サビ:恋のうたが~
- 2番Aメロ:風の便りの~
- 2番サビ:君のことを~
- 1番Aメロくり返し:あまい口づけ~
最初にくる1番のAメロとBメロは男の中で溢れ出ているやるせない気持ちをストレートに書かれており、そうなったきっかけこそがサビにあると思うのです。
恋のうたが 誘いながら 流れてくる
引用元
そっと眠りかけたラジオからの さみしい そして 悲しい
いっそ やさしい セレナーデ
「眠りかけたラジオ」が男の今の暮らしを表しています。
連想されるのはひとり暮らしの生活。夜中にラジオを流していたけど、それを聴いているわけでもありません。単に寂しさを紛らわす為の「音」が欲しかっただけだと思います。
そのままにうとうとと微睡(まどろ)んでいた男。するとラジオからふと流れてきた切ないメロディーの曲。それが男にはセレナーデに感じて、過去の思い出が一挙にフラッシュバックしてきたのではないでしょうか。
そしてAメロ・Bメロへと繋がります。
あまい口づけ 遠い想い出
引用元
夢のあいだに 浮かべて 泣こうか
忘れたままの 恋のささやき
今宵ひととき 探してみようか
遠い想い出になってしまった男の恋。このまま過去のものとしてしまうべきか、それとももう一度探してみるべきか。男の中で迷いが生まれています。
男が迷う気持ちの理由は以前の恋の辛い終わり方にあります。それが分かるのが2番のAメロ。
風の便りの とだえた訳を 誰に聞こうか それとも 泣こうか
引用元
男の元から去って行った恋人。途絶えた風の便り=女性から拒絶されてしまったのかもしれません。
そんな辛い過去だからこそ、男は頭の中から消去していたのでしょう。それが偶然ラジオから流れてきた”セレナーデ”によって甦ってきたのです。
時系列順は1番サビ→1番Aメロ・Bメロ→2番Aメロという手法(倒置法?)を敢えて使っているのではないかと思います。それで男の切ない心情を強調させているのが井上陽水のセンスではないでしょうか。
そして最終的に1番のAメロを繰り返す形で曲は終わります。
あまい口づけ 遠い想い出 夢のあいだに 浮かべて 泣こうか
引用元
過去にすがるよりも“いっそ(このまま)”流れてきた優しいセレナーデに身を任せて涙しよう。これが男の出した結論なんでしょうね。