Tシャツに口紅 歌:ラッツ&スター 作詞:松本隆

1983年9月、シャネルズから改名したラッツ&スターの2枚目にシングルとしてリリース。前作の「め組のひと」の大ヒットに比べるとセールスはあまり振るいませんでしたが、未だに好きな人が多い名曲です。
歌詞はこちらで。
ラッツのお家芸「ドゥーワップ」のバラードで、作詞&作曲は「はっぴぃえんど」の名コンビ、天才・松本隆と大滝詠一です。
映画のワンシーンを切り抜いたような松本隆の詞には、アイテムが登場人物の心理描写の役割をする事が多いようです。
ここではズバリ、タイトルにある「Tシャツ」と「口紅」です。
夜明けだね 青から赤へ 色うつろう空 お前を抱きしめて
引用元
夜明けの海に佇む2人。空の色が変わる中、長い沈黙の後、彼は彼女に別れ話を切り出します。
別れるの?って真剣に聞くなよ でも波の音がやけに静かすぎるね
引用元
突然の彼からの言葉に、驚いた彼女。耳を疑うかのように、彼に確認します。それに即答できない彼。聞こえるのは波の音だけなのです。
色褪せたTシャツに口紅
引用元
「色褪せたTシャツ」とは恋愛に対する情熱を失った彼の心境。「口紅」はまだ彼の事を愛している彼女の気持ちを表しているのではないでしょうか。
鴎が驚いたように 埠頭から飛び立つ
引用元
彼女との気持ちの温度差に気付いた彼は、気持ちを鴎に託して、今すぐこの状況から逃げ出したい衝動に襲われたのでしょう。
2コーラス目のAメロ~Bメロは、温度差を自覚した彼が、必死に彼女に自分の心境を説明します。
つきあって長いんだから もう隠せないね 心に射した影
引用元
みんな夢だよ 今を生きるだけで ほら息が切れて 明日なんか見えない
黙って聞く彼女。でもどれもこれも綺麗事、言いわけにしか聞こえません。彼の本心が見えてこないのです。
黙った君が 黙った俺を 叩いた
引用元
仔犬が不思議な眼をして 振り向いて見てたよ
業を煮やした彼女は彼の頬を張ります。彼女の行動にびっくりした彼。きっとこれまでは、そんな事をするような女性だとは思っていなかったのでしょうね。
そして彼は一番言ってはいけない事を言ってしまうのです。
これ以上を君を不幸に 俺出来ないよと ポツリと呟けば
引用元
不幸の意味を知っているの?なんて ふと顔とあげて なじるように言ったね
彼は「このままでは君を不幸にする」と自分を卑下し、あくまでの君の為を思って別れたいという理由を告げます。
でも、別れたいオーラをずっと発しながら、ちゃんと本心を伝えてない彼がこんな事を言っても彼女が信用できるでしょうか?
相手を傷つけまいとする偽りは、かえって相手を傷つけてしまうものなのです。
キレた彼女は、それまで伏せていた顔を上げて彼を睨みつけました。
「不幸の意味を知っているの?自分の基準で勝手に人の不幸を決めつけないで!」と。
そしてラストのサビを繰り返す部分
泣かない君が 泣けない俺を 見つめる
引用元
彼女のは悲しさを通りこして、情けないという気持ちでいっぱいだったのでしょう。そんな時は涙なんか出ないものです。
彼女に心を見透かされてしまった彼も、動揺を隠せずに泣けません。
鴎が空へ飛び立つ 動かない俺たちを 残して
引用元
別れ話が泥沼化してきた二人。そんな彼らを残して鴎は今日も空へ飛び立っていくのです。
恐らく「人間って大変だな。俺はこんな自由でいいいだろ?」と呟きながら。
その言葉を死ぬ程羨ましく感じていたのは彼だったのでしょうね。