翳りゆく部屋 歌手:松任谷由実 作詞:荒井由実

1976年3月、荒井由実(ユーミン)の7枚目のシングルとしてリリース。荒井由実時代のラストシングルです。
イントロのバロック調のパイプオルガンと乾いたドラムのタムの音が独特の世界を醸し出しています。
歌詞はこちらで。
主人公の女性と恋人がいる、夕暮れ近づく部屋の描写から始まります。
窓辺に置いた椅子にもたれ あなたは夕陽見てた
引用元
なげやりな別れの気配を 横顔に漂わせ
最近、しっくりといっていないカップル。恐らくコミュニケーションもまともに取れていないのでしょう。「なげやりな別れ」というフレーズから推測できます。
ちゃんとした理由も言わず「別れたい」オーラを発する彼。彼女もその空気を彼の横顔から察しているのです。
二人の言葉はあてもなく 過ぎた日々をさまよう
引用元
ふりむけばドアの隙間から 宵闇が忍び込む
一応、会話はしているのですが、互いの言葉への反応が上の空。頭の中にはこれまでの思い出が走馬灯のように駆け巡っています。
そして気がつけば、夕方から夜へと時間だけが過ぎてく。部屋にも二人の心にも「宵闇」が忍びこんだのです。
そして、2コーラス目
ランプを灯せば街は沈み 窓には部屋が映る
引用元
冷たい壁に耳をあてて 靴音を追いかけた
彼は明確な答えを出す事もなく部屋を出て行きます。漆黒の闇に包まれた部屋。
取り残された彼女はランプに明かりを灯します。窓に映る部屋には彼女がポツンとひとりきり。
彼女は壁に耳をあてて、去っていく彼の靴音に耳を澄ませます。素直に「行かないで」と言えないもどかしさに少しイラつきながらも、意識の底で名残り惜しむように追いかけるのです。
一体このカップルには何が起こったのでしょうか?どんな理由があって別れる事になったのでしょうか?
どちらかの浮気?性格の不一致?二人に説明を求めても上手く言えないでしょう。
どんな運命が 愛を遠ざけたの
引用元
当人同士も分かっていないのです。もし、相手の事が嫌いになったのなら「愛は無くなった」と表現するかもしれません。でも「愛は遠ざけられた」のです。決して相手を嫌いになった訳ではないのです。
自分たちは「好き」という気持ちでいたのに、何かによって遠ざけられた。
それは例えば、親の反対や遠距離という障害なのでしょうか?
いいえ、もっと根深いものように思います。外因的な障害なら、駆け落ち等の行動で解決する事も可能かもしれません。俗に「愛の為なら死ねる」のように命を投げ出す覚悟があれば、何でもできるものです。特に二人ならば。
でも、彼女は言い切っています。
輝きはもどらない わたしが今死んでも
引用元
命を投げ出しても戻らない輝き。という事は、死ぬ気でやればなんとかなるという問題ではないのです。
この舞台の部屋は「夕陽」→「宵闇」→「街が沈み込む闇」と徐々に翳り、背景が変わっていってます。
二人の想いも同じように、うっすらした明るさから漆黒の闇へと翳ってしまったのですね。