SWEET MEMORIES

SWEET MEMORIES 歌手:松田聖子 作詞:松本隆

 昔の恋人に再会した女性。その時の彼女の心境を綴った歌詞です。

 歌詞はこちら

 彼女はこれまで忘れていた痛みを思い出します。それは心の痛みなのか、それとも身体的な痛みなのかは分かりませんが、いい記憶では無かった事だと思われます。

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という諺や「時薬」という言葉があるように、時間が経てば嫌な思い出も徐々に薄れてきます。彼女にとっていい記憶でなかった事も“ずっと前に忘れていた”のです。だからこそ辛さよりも懐かしさが先に来たのでしょう。

 しかしそれだけで片付けていいものでしょうか。彼女は自分にとっていい記憶でなかった事も美化しているように私には感じられます。それらを感じられるのが“失った夢だけが 美しく見える”や“色褪せた哀しみも今は 遠い記憶”というフレーズです。

 しかも彼女は、“二人は若すぎて悪戯に傷つけあった”という生々しい記憶も否定してはいません。普通に考えたら、この彼に対して嫌な印象が先に立つのでは?と思ってしまいます。なのに彼女は彼と再会して、時間が引き戻され、あの頃の痛みが“なつかしい”と感じています。彼女のこの心境は謎です。

 どんなに時間が経とうとも、傷つけあった事や痛みを感じた事が“甘い記憶 Sweet Memories”になるわけないじゃんとツッコミを入れたくなるのです。もしかして彼女は典型的な「M体質」で男性から支配される事に喜びを感じる女性なのでは?等と突拍子もない想像をしたり…。

 でも、それに対する答えがこの歌詞の中にはちゃんと2つ用意されていました。

 ひとつめは1コーラス目のBメロ

 「幸せ?と聞かれた時に、嘘を上手につけない」と言っています。

 敢えて「不幸」という言葉を使わずに不幸を表現する手法。ちょっと前にテレビのバラエティ番組で紹介されていた松本隆マジックです。

 話がそれましたが、つまりこの主人公は今現在幸せではないのです。幸せじゃないからこそ、過ぎ去った想い出が美しく見えるのです。

 ふたつめは2コーラス目のサビ

 「若すぎたあの頃は、悪戯に二人は傷つけあった」という表現。

 自分の言動が相手を傷つける事も分からない程、当時彼女も彼もまだ若すぎた(幼かった)のでしょう。“いたずらに”も本来は「徒に」なのですが、敢えて「悪戯に」という表記を使っているところに、二人の子供っぽさを表現していると感じます。

 もっと考えるなら、互いに傷つけあった事を、若さのせいにすれば多少は美化される。そうしなければいけない程今の彼女は不幸なのでしょうね。

 そんな現実逃避ばかりの内容かと思いきや、CMで話題になった2コーラス目の英語の歌詞には思い切り現実的な事が詠われています。

キスはしないで。私たちは昔のようにはなれない。 心の痛みを増やしたくないの。もう私を傷つけないで。 あなたのことを考え、あなたの愛を求めて、どれだけたくさんの夜を過ごしたことか・・・。 あの頃は、心からあなたを愛していたのよ。(意訳)

 思い出を美化しているようには見えません。それどころか、彼に傷つけられた事が今でもトラウマになっているようにも感じ、再会を後悔してるようです。

 今が不幸な故に、過去を美化してしまう日本語の部分。それにストップをかけるかのように過去のトラウマを持ち出す英語の部分。両方とも彼女自身の精神状態です。

 人の心は簡単に説明が付かない程、複雑なものですよね。日本語と英語のフレーズの使い分けで、その複雑さを表現している松本隆マジックには本当に驚かされます。

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